外津湾を目指し、車を走らせる。潮風が何とも心地よい。いくつもの漁船が停泊している港の前に、イカの乾燥マシン(通称イカぐるぐる)が綺麗な円弧を描きながら回っている。「丸福水産」に到着だ。
加工場に足を踏み入れると、玄海町の美しい海で育った魚たちを隅々までチェックしながら、丁寧に丁寧に捌いていくベテランお母さん達の姿が。商品を見せていただくと、干物であるにも関わらず、獲れたて鮮魚のようなみずみずしさ。あまりの美しさに衝撃を受け、干物の概念が変わった瞬間だった。
丸福水産の干物は、想像以上に塩加減が難しい。まぶす時から独特な方法をとっている。もちろん企業秘密だ。「みりん干し」は特製の調味液で味付け。ムラを無くすため、裏と表を返しながら手間を惜しまず漬け込む。その味が高く評価され、ふるさと納税干物部門で全国第2位の実績を持つ。
さらに干物は、素材を乾燥させる風が重要で、適度な湿度・温度・海風が必要と聞く。外津湾は、干物作りに絶好の場所。玄界灘で獲れた新鮮な魚を、玄界灘の北西風(あなぜ)で天日干しすることで、旨みが一層増すという訳だ。しかも種類によって干す時間・タイミング・風・日差しの強さがそれぞれ違う。長年の勘だけが頼り。
「とにもかくにも原料が一番大事。まずは刺身でも食べられる新鮮でいいものを仕入れること。次に素材を丁寧に扱い、丁寧に作ること。塩加減は極秘だけどね」と3代目・野﨑社長。
今の丸福水産の干物があるのは、味の極意を教えてくれた先輩のおかげ。「一切教えないので見て学べ!」と言われ、必死でその加工技術を体得したという。今ではこの技術が味の要となった。
平成12年の創業当初は、3畳の小さな加工場からスタートし、家族でイカの一夜干しだけの加工を行っていたという。今では、あじ・さば・かます・ぶり・カツオ・連子鯛・いかなど数十種類に増えた。
現在社長は、妻・信代さんの献身的なサポートもあり、4代目の息子さんと漁船“福吉丸”で一本釣り漁を行いながら、各地の市場や漁師の元に出向いて仕入れ、加工に力を注いでいる。
後日、“連子鯛の開き”をグリルで焼いてみた。濃厚で凝縮された旨みと塩加減が絶妙で、独特の極秘技術が活かされているのは間違いない。玄界灘の北西の風を感じながら、一つひとつ手作りされた干物の味を噛み締める。美味しさの中に込められた、加工技術と加工者の想い。玄海町に行けば、新鮮な魚、そして美味しい干物に出会える。
丸福水産
佐賀県東松浦郡玄海町今村4939-4
TEL 0955-52-6535