玄海町の甘味として親しまれてきた「前川菓子屋」の創業は、昭和初期に遡る。初めて訪れる店にも関わらず、ほっこりと懐かしい気持ちにさせてくれる、そんな佇まいだ。こぢんまりとした店内の奥には、年期の入った餡練り機、焼き機、テーブルが。防腐剤は使用せず、作り置きもしない。オートメーション化され効率が優先される時代の中、ここでは人の手の温もりが伝わる昔ながらの製法。
3代目の前川公望さんは、母親の作るまんじゅうを楽しみに買いに来られるお客さんの姿に感化され、定年後、和菓子づくりの道へ。現在は夫婦2人で老舗の味を守り続けている。
創業当時から作っていた「ありうらまんじゅう」の材料は、こしあん、砂糖、小麦粉、卵、水あめと、いたってシンプル。火加減とタイミングを見極めながら練り上げた店独自の餡を、一つひとつ手作業で包んでいく。「うちのまんじゅうはボタン1つでできるものではないからね。最初から最後まですべて手作りだよ」。小さな紙包みを開くと、素朴な姿のまんじゅうが顔を出した。こんがりと焼きあがったその味に思わず笑みがこぼれる。
「しっとりさざえもなか」は、ここ数年前から作り始めた新たな和菓子。
その名の通り、可愛いサザエの形をしている。通常“最中”といえば、パリッとした皮が特徴だが、ここではあえてしっとりとした皮の最中に仕上げている。やわらかで香ばしい皮に、素朴で優しい餡の甘さ。好みもあるだろうが、パリッとしていない最中がこんなにも美味しいとは。
玄海町で長年愛されているふるさとの和菓子。
味わえるのは、もうここ1軒だけとなった。
前川菓子屋
佐賀県東松浦郡玄海町諸浦341-10
8:30〜19:00(土曜のみ17:00まで)
定休日:日曜日、不定
TEL 0955-52-2033